和紙の産地は日本全国に広がっており、古い歴史があるものや、近年新しくできた産地など、さまざまな特徴の和紙が存在します。特に、

    • 土佐和紙・・・高知県
    • 美濃和紙・・・岐阜県
    • 越前和紙・・・福井県

 

は日本三大和紙に選ばれており、全国的にも有名。そして福井県の伝統的工芸品の一つに数えられる越前和紙は、越前市岡本地区で生産される和紙のことを言います。


 

越前和紙の特徴

 

催事2019_和紙

越前和紙は、次のような特徴があります。

    • 水に強い
    • 強度があり破れにくい

 

紙質は薄くて丈夫、水に強いことが大きな特徴とも言えるでしょう。その品質の高さゆえ、古くから全国で使われています。長い歴史とともに、多種多様な技術が培われていることでも有名です。

また、将軍家が使った「越前奉書」や紙の王と評された「越前鳥の子紙」は、国の重要無形文化財にも指定されているほど。日本紙幣にも越前の技術が使われており、私たちの生活にも大きく関わっているのです。

そもそも和紙とは?

和紙は1500年以上前から生産されていた日本独自の紙を指します。「和紙1000年、洋紙100年」と言われるほど保存性も高いのが和紙の大きな特徴。

主な原材料は、楮(こうぞ)や三椏(みつまた)、雁皮(がんぴ)という木の皮の繊維と、ネリと呼ばれる粘液となります。

近代に西洋から伝来した洋紙は薬品を補助剤として使用して作られますが、和紙の製作は長い繊維を丁寧に絡めて作られますので、薄くて丈夫な仕上がりにもなります。

また、和紙の製紙には綺麗な水が必要不可欠。水は繊維に付着している不純物を洗い流したり、原料を水中に浮かせて分散させたりと、非常に重要な役割を担います。少しでも水に不純物があると、微妙な成分が紙の硬さや完成品の良し悪しに大きな影響を及ぼします。

綺麗な水と天然の原料との組み合わせによって生み出される和紙は、日本の環境や職人さんの技術によって生み出せる伝統的な作品とも言えるのではないでしょうか。


 

越前和紙の伝統的な製造工程

 

越前和紙

昔から受け継がれてきた越前和紙の製造工程は、大きく次の3つに分けることができます。

    1. 煮熟(しゃじゅく)・・・繊維から不純物を取り除く
    2. 叩解(こうかい)・・・繊維を柔らかくし、ほぐす
    3. 抄紙(しょうし)・・・紙漉き・乾燥・仕上げをする

 

高い品質を誇る越前和紙を製作するには、どの工程も丁寧な作業が必要不可欠。それぞれ詳しく見ていきましょう。

煮熟(しゃじゅく)

煮熟(しゃじゅく)は材料となる繊維から不純物を取り除く工程です。約10時間水に浸けた楮や三椏、雁皮をソーダ灰とともに釜に入れて煮熟し、不純物を溶かし出します。その後再び水につけて洗い、手作業で丁寧にゴミを取り除きます。適切に塵を取り除くことが品質に影響するため、大変な手間がかかりますが、完成品の品質に大きく影響を与える最初の工程ですので、最も重要な工程とも言えるでしょう。

叩解(こうかい)

叩解(こうかい)は繊維を細かく柔軟にし、1本、1本の繊維にほぐす工程です。繊維に結束しているセルロースの集合体を叩いてほぐします。適切に叩解された繊維は接着が良く、引っ張りや破れに強くなるため、丈夫で柔軟性に優れた和紙となります。

抄紙(しょうし)

抄紙(しょうし)は、

    • 紙漉き
    • 乾燥
    • 仕上げ

 

を行う工程です。出来上がった紙の材料(紙料)を、ネリ(トロロアオイなどの植物から採れる粘液)と混ぜ合わせ、漉槽に入れます。これで材料は完成です。

越前和紙 製作工程

紙漉きは、完成品や原料によって異なる技法を用います。

    • 流し漉き・・・簀桁で紙料をすくい、揺すって厚みを出す
    • 溜め漉き・・・簀で汲み入れた紙料の滴下に任せて紙層を作る

 

漉いた紙は圧力をかけて脱水、乾燥させて水分を飛ばしていきます。乾燥は天日干しや乾燥室を用いて、十分な時間をかけておこないます。

現在では手漉き以外に、大量生産向きな機械漉きも一般的になりつつあります。機械漉きの場合は、手漉きとは比べ物にならないほど大きな機械を使います。


 

越前和紙の歴史

 

越前和紙

越前和紙は1500年という最も古い歴史を持つ日本古来の和紙です。川上御前に紙漉きを伝えられた越前の産地。紙漉きが日本に伝わった4〜5世紀には既に優れた和紙を漉いていたとも言われています。

当初は写経用紙として生産されていたようでしたが、年月が経つにつれて公家や武士階級が紙を消費し始めると、それに伴い技術、生産量も大幅に向上していきます。

室町時代から江戸時代には全国規模に展開され、和紙産地として幕府や領主の保護を受け発展を続けていきました。なかでも「越前奉書」の品質の高さを評価され、江戸幕府の御用紙としても利用されていたこともあります。

日本初の藩札である「福井藩札」や明治新政府のお札「太政官金札」にも越前和紙が使われていました。また、昭和25年まで日本のお札の一部は越前で漉かれていたのです。

今では当たり前となった透かし技法も、もともとは越前和紙特有の技術。これによって日本の紙幣製造技術が大幅に進化したと言っても過言ではありません。

恵まれた産地で現在も進化し続けている越前和紙

 

越前和紙

越前和紙発祥の福井県越前市は、自然の豊かさもさることながら、漆器や刃物、箪笥、焼き物など、多くの伝統工芸産業も集結しています。

このように多種多様な産業が集まる産地は非常に珍しいとも言えるのではないでしょうか。現在も多くの職人さん達が日々切磋琢磨しながら製品作りに励まれています。

また、越前市や鯖江市を中心に地域活性化の動きもあり、若者の育成にも力を入れています。新しい文化を取り入れ、挑戦を続けている越前和紙の産地は、まさにこれからの伝統工芸の新しい姿とも言えるでしょう。


 

越前和紙でつくられたもの

 

長く品質の高さを評されてきた越前和紙。1枚1枚丁寧に製作されるため、格式高い高級品のようなイメージを持たれるかもしれません。ですが現在は、

    • 水に強い
    • 強度があり薄くても破れにくい

 

などの特徴を上手く利用し、メモ帳や色紙、コピー用紙など、私たちの日常に溶け込む商品なども製作されています。

有限会社やなせ和紙「harukami [cobble]」

harukami [cobble]
やなせ和紙の和紙でつくられた箱。河原の小石のようなカタチと、和紙ならではの優しい風合いで生活空間によくなじみます。一つだけでなく、たくさん並べてもかわいい製品です。

出典:有限会社やなせ和紙

 

山次製紙所「series(シリーズ)」

プロダクト

独自の技法、「浮き紙」によって立体的な表現が可能になった和紙によるプロダクト。鋭角に凹凸した模様が、紙ではない不思議な雰囲気を醸し出します。

茶缶や和紙箱、カードケース、バッジの4つの製品があり、色のバリエーションも豊富。鮮やかな色とともに生活を彩ってくれます。

プロダクト

出典:山次製紙所