福井県鯖江市周辺でつくられている越前漆器は、古くから生活に溶け込んだ漆産業が有名な越前地方で生産されています。鮮やかで落ち着いた光沢が、繊細な感性を持つ日本人の心を和ませてくれる越前漆器。

漆器と聞くと、汁碗や重箱をイメージされるかもしれませんが、越前漆器は現代のライフスタイルに合わせ、様々な製品が開発されています。ニーズに合わせて大量生産技術も確立され、外食産業を中心に業務用漆器の約80%を越前漆器が占めているのです。


 

越前漆器の特徴

 

下村漆器2015_漆器

古くから伝わる伝統技術で生産されており、時代とともに進化を続けながら人々に愛され続けている漆器。漆器の特徴をあらわすと、以下の3つに分けられます。

    • 堅牢
    • 蒔絵や沈金の技術
    • 日本一の生産量

 

何度も丁寧に塗られる漆のおかげで、完成した漆器の強度は高く、非常に長持ち。また、古くからの装飾技術である「蒔絵」や「沈金」によって描かれる模様や絵柄は、本来の使い方だけでなく、飾っておくだけで絵になるほど。芸術品としての完成度も非常に高く、全国に留まらず、全世界に愛好家がたくさんいます。

全国の漆器の中で越前漆器は、伝統的な木製の漆器だけでなく合成樹脂や化学塗料を使用して大量生産されているため、手に入れやすい価格であることが大きな強みです。越前漆器は、業務用漆器を入れると日本一の生産量を誇りますので、どこかで見かけているかもしれませんね。


 

そもそも漆器とは?

 

そもそも漆器とはどのようなものなのでしょうか。

漆器は、ウルシの木から採取した樹液である「漆」を塗った製品を指します。漆は乾燥すると堅牢性が出るため、塗料や接着剤としての役割を果たします。そのため木製やプラスチック、その中間にあたるような素材(木紛加工品)に塗らることが多いです。

また、欠けてしまった製品修復にも使われることもあります。ほかにも漆を塗り重ねてつくられた製品であれば、器以外に箸や雑貨であっても、まとめて「漆器」と呼ばれます。


 

越前漆器の歴史

 

越前漆器の歴史は日本最古ともいわれ、発祥は1500年前にも遡ります。当時、皇子であった天皇が越前に訪れた際、地元の塗り師に冠の修理を命じたことがきっかけとも言われています。

修理を受け持った塗り師(職人)が冠を丁寧に修理し、黒塗り椀と共に献上。その出来栄えの良さや、黒塗り椀のあまりに美しい光沢に魅了された天皇は、越前近辺を漆と漆器の産地として推奨したのです。


 

漆器づくりに適している土地【越前・鯖江】

 

もともと天皇の一言から始まった漆産業ではあるものの、実は越前や鯖江の土地や気候、特に湿度や温度が漆器産業に向いているとも言われています。「良質な漆や材料の調達がしやすい」と、全国の漆掻き職人の半数が越前出身であった時期もあるほどです。

現在は、新しい色や技術、素材を取り入れていく職人も多く、伝統的な漆器に縛られず、今の暮らしに馴染む漆器つくりへの工夫が続いています。

ー環境に恵まれ、職人が集まり、技術を各々がしっかりと受け継いでいくー

伝統的なものだけでなく、どの時代も暮らしの中で使えるものを、つくる側にとっても使う側にとっても愛すべき存在として、長い間暮らしの中に根付いているのです。


 

越前漆器の製造工程

 

越前漆器は、古くから伝わる伝統的な手法はもちろんですが、最近では業務用に大量生産品も製造するのも主流です。大量生産品は機械や化学塗料を使い、効率よく生産されています。

ここでは、以下の2通りの方法でそれぞれご紹介していきます。

    • 伝統的な製造方法
    • 業務用漆器の製造方法

 

伝統的な製造方法

越前漆器は1つの製品に対し、複数の職人の手を経て作られる分業制が採用されています。各工程は、大きく次の3つに分けられます。

    1. 木地製作
    2. 手塗(下地・上塗り)
    3. 加飾(蒔絵・沈金)

 

それぞれ細かな工程ひとつひとつを、その道のプロが丁寧に仕上げていかなければ成り立ちません。職人達による技術のリレーにより、高い品質を保ちながら生産されているのです。

1.木地製作

まずは製品の形を作っていきます。お椀などの丸物は、ろくろで削り形を作ります。箱やお盆などの角物の場合は、合板から削り出し、組み立てていきます。

2.手塗(下地・上塗り)

職人の手によって、ムラができないよう丁寧に漆を塗っていきます。漆は湿度と温度の変化により、乾き具合が変わってしまう繊細なもの。仕上がりに大きな影響を与える重要な工程。使用する道具にゴミが残っていると、知らない間にゴミが付着してしまいますので、清潔さにも細かな気を配る必要があります。

3.加飾(蒔絵・沈金)

乾燥させた漆器に模様や絵柄を入れていきます。加飾の手法は大きく2つに分けられます。

    • 蒔絵(まきえ)・・・蒔絵筆に漆を染み込ませて模様を描く
    • 沈金(ちんきん)・・・漆器の表面に刃物で模様を削り、金箔や顔料を漆で定着させる

 

業務用漆器の製造方法

越前漆器は、より安価で丈夫な製品をつくるために、合成樹脂素材や化学塗料が使われることもあります。ニーズに応じて大量生産技術や化学品が使用されるのも、越前漆器が現代でも愛される理由の一つとも考えられますね。

木製漆器とは製作工程が大きく異なり、次のような工程を経て生産されます。

    1. 合成樹脂成形
    2. 塗装
    3. 印刷・転写

 

こちらの製作工程も見ていきましょう。

1.合成樹脂成形

プラスチック粉を機械で熱加工し、目的の形に成形します。一度金型を成形してしてしまえば、大量に生産できますので、木製の木地製作よりも製造工程を簡単にすることができます。また、価格を抑えるのに繋がるほかに、従来に比べて多様な形の製作が可能です。

2.塗装

手動もしくはロボットのスプレーガンで漆や化学塗料(ウレタンなど)を吹き付けていきます。最近はスプレーや変わり塗りなど、新しい技法の開発も進んでおり、完成品デザインの多様化も進んでいます。

3.印刷・転写

乾燥した漆器の表面に機械で模様を印刷していきます。技術も高度になり、比較的に安く量産できるという理由で、原画を刷り込むスクリーン印刷や、パッド印刷などの転写が多く行われるようになってきました。


 

越前漆器の製作物

 

土直2019_漆器

伝統的なものから日々の暮らしでオシャレに使い熟せるものまで、人々の暮らしの流れに沿って変化し続け愛される越前漆器。そんなギャップを感じられるおすすめの商品を、いくつかご紹介します。

土直漆器「くるむ」

くるむ  

各工程ごとに専門の職人を抱えている土直漆器らしい製品のひとつ。若いスタッフの新しい発想との融合を図っている中で確かな技術を感じられ魅力的です。

出典:土直漆器

 

 

漆琳堂「aisomo cosomo」

aisomo cosomo

越前漆器の塗師屋として1793年より漆器づくりを行っている漆琳堂は、見たことのない鮮やかな漆の色味が特徴的です。その他にも業務用の洗練された漆器も取り扱っています。

出典:漆琳堂

 

 

TSUGI「TOOWN」

TOOWN

まさに伝統工芸に囚われていない漆器。ブローチは時間を重ねると透明度が増す天然の塗料「漆」ならではの製品です。

出典:TSUGI

 

また、SAVA!STOREは2019年にオープンしたばかりの小さな複合施設TOURISTOREに併設されています。中には老舗漆器工房での漆塗り体験ができるなど、越前漆器の長い歴史と共に‟いま”を体感できる場所になっています。