頑丈な見た目で、ドッシリとした重量感のあるつくりをしている越前箪笥は、福井県越前市や鯖江市周辺で生産されています。越前箪笥は、ケヤキやキリを主な材料としているため、精度や耐久性が非常に優れて長持ちします。

また、継ぎ目に金具を利用したり、全体が漆塗りで装飾されている箪笥としても有名。長い期間使えば使い込むほど味わい深い質感に変化し、より存在感が増していくのも越前箪笥ならではの大きな魅力と言えるでしょう。


 

越前箪笥の特徴

 

越前箪笥

越前箪笥の特徴と聞いた時、まず初めに思い浮かぶのが重厚感のある雰囲気ではないでしょうか。越前箪笥は、指物技術だけでなく、越前打刃物(金物)、越前漆器(漆塗り)の技術が合わさり、存在感が光る仕上がりとなっています。

    1. 指物技術
    2. 金具
    3. 漆塗り技術

 

それぞれの技術について詳しくご紹介します。

1.伝統的な指物技術

指物技術

越前箪笥には、釘を使わずに木材を接合する「指物技術」を使ってつくられています。指物技術は古来より伝えられる技術で、木材を組み合わせて接合するため、圧倒的な強度があります。

指物技術はたくさんの手法がありますが、越前箪笥は主に「組みつぎ」や「ほぞつぎ」と呼ばれる組み手加工が用いられます。

2.特徴的な金具

越前箪笥を締めくくる猪目(いのめ)の金具は、ハート型でもあるためとても特徴的。猪目は、読んで字のごとく猪の目の形に似ているのが由来ともされています。

昔は獣の目が魔除けともされていたので、家の大切なものをしまっておく箪笥に、このような模様が使われたとも考えられます。

3.越前漆器の漆塗り技術

越前箪笥に欠かせない技術として忘れてならないのが漆塗り。越前漆器の歴史は1500年以上も遡ります。漆は何度も何度も丁寧に塗り重ねられ、美しい仕上がりとなります。


 

越前箪笥の歴史

 

工房

越前箪笥は、2013年(平成25年)に伝統工芸品に指定されましたが、その歴史は江戸時代末期にまで遡ります。江戸末期から明治末期に、旦那衆に出入りしていた手先の器用な能面工芸や農業者が、「指物師」として専業化したのがはじまりだと言われています。

現在の越前市は昔、越の国の国府が置かれ、政治経済文化の中心地として栄えていました。また越の国は「刃物のまち」でもあり、金具鍛冶にも恵まれていました。そして近隣の河和田地区は漆器の産地。

越前箪笥に重要な指物技術、打刃物、漆器の技術が揃い、それぞれの技術を用いて箪笥づくりが始まります。このように、明治中期ごろには本格的な箪笥づくり職人が中心となり、建具商や家具屋が建ち並んだ「タンス町通り」ができました。


 

越前箪笥の製造工程

 

越前箪笥 工程

様々なジャンルの職人技術を用いて製作される越前箪笥。ここでは、製作工程をご紹介していきます。

1.木材の乾燥

箪笥に使われる木材は、ケヤキやキリなど天然の無垢材を自然乾燥させたものを使用します。木材には水分が含まれているため、そのまま使うと気温や湿度の影響によって膨張したり、変形してしまいます。そのため原木の丸太から材料になる一枚板や角材を挽き、材質によっては3〜5年ほど自然乾燥させます。

2.図面引き・木取り

材料の木材に図面を引き、寸法通りに材料を加工していきます。この工程でいかに精度が出せるかによって、完成品の出来栄えに大きく影響を与えますので、最も重要な工程とも言えるでしょう。木材には虫食いや傷もあるため、それを避け、図面通りの厚みや幅を挽き出します。

3.組手加工

天板などに使用する板を、奥行き方向に継ぎ合せていきます。越前箪笥は厚さの定義が決まっているので、それに合わせて手押しかんな盤や、ブレーナーを用いて表裏を均等に削ります。その後、「組つぎ」や「ほぞつぎ」と呼ばれる技法により、板材を組み合わせていきます。

4.削り

形ができあがれば、かんなで厚みが均一になるように調整します。削り作業を丹念にすることで、塗装した際の美しさが際立ちます。

5.漆塗り

全体が均一に塗り上がるよう、ヤスリで全体をならした後に、塗料である漆を塗っていきます。漆の塗り方は「下地塗り」「中塗り」「上塗り」の3種類があり、それぞれ工程別に塗る漆を分けています。

6.金具取付

ここで越前箪笥の特徴である猪の目の金具を取り付けていきます。金具に熱を加え、生糸で焼き付けをすれば完成。装飾用の金属金具は、金属製のハンマーを使い、鍛造(たんぞう)と呼ばれる技法で鉄を打ち延ばして製造されます。

まずは鉄板に型紙を貼り付け鏨(たがね)で切断。その後、手作業でやすり面を整えていきます。最近では、機械で打ち抜いて整形されることも多くなりました。


越前箪笥の技術を生かした製作物

越前箪笥の製作技術は、他の木工製品にも応用できます。アパートやマンションなどの集合住宅が増えてきた現代において、箪笥の需要自体が少なくなっているのも事実。そのため現在においては、越前箪笥の製造で培った伝統工芸技術を生かした様々な製品も開発されています。

小柳箪笥「オリジナルテレビボード」

オリジナルテレビボード完全受注生産のオリジナル越前箪笥も手掛けている小柳箪笥。4代目職人の小柳さんは越前箪笥の伝統的な技術を生かし、箪笥のみならず、様々な木工製品を手掛けています。現代のご家庭にぴったりのテレビボードや、ご要望に応じてテーブルなどのオーダーメイド品も手掛けられています。

出典:小柳箪笥

 

ファニチャーホリック「箪笥のキャリーバッグ」

箪笥のキャリーバッグ
越前箪笥はもちろん、オーダーメイド家具を製作しているファニチャーホリックが手掛けた箪笥のキャリーバッグ。越前箪笥らしいフォルムなのはもちろん、可愛らしい雰囲気も醸し出しています。伝統工芸技術が生かされた新しい形とも言えるでしょう。

出典:ファニチャーホリック

ファニチャーホリック「折りたためるちゃぶ台」

折りたためるちゃぶ台こちらもファニチャーホリックで作られた製品。精巧なつくりである越前箪笥の製造技術を用いて作られたちゃぶ台です。表面には伝統的な漆器技術である拭き漆が塗られているものもあります。

出典:ファニチャーホリック